ルワンダの農村部で、人々の健康と尊厳を守る地域ぐるみの取り組み:日赤看護師(ルワンダ駐在員)からのリポート
ルワンダは東アフリカの内陸部に位置し、四国の1.5倍ほどの国土に1300万人もの人々が生活しています。1990年代に起こった大虐殺以降、国は経済的に急成長を遂げる一方、都市部と農村部では、著しい経済格差が生じています。
このような状況で、2019年より日本赤十字社(以下日赤)はルワンダ赤十字社(以下ルワンダ赤)と共同で、「モデルビレッジ事業」を実施しています。この事業は、貧困や感染症などの社会問題に対して、生計支援や防災、保健衛生の向上を図ることで、住民同士が協力し困難を乗り越える力を育むことを目的としています。
今回は、2024年10月から2025年3月まで事業管理要員として現地で活動した、日赤愛知医療センター名古屋第二病院の鳥越看護師から、ルワンダの農村部の保健医療の現状と支援の成果をお伝えします。
地域住民の健康・衛生を守るコミュニティヘルスワーカー
コミュニティヘルスワーカーは村の住民の健康を守る、人々の最も身近で大切な存在です。医療に関する免許は持っていませんが、ルワンダの保健省が定める教育を受けており、健康を増進するための知識、病気の際の対応、母子保健についての知識を持っています。コミュニティヘルスワーカーとは、地域住民から選ばれて、保健衛生の研修を受講後、地域における医療相談などの活動を実施しているボランティアです。日本の民生委員に近い存在でしょうか。
例えば、コミュニティヘルスワーカーは、5歳未満の子どもに対してはマラリア、肺炎、下痢に対応するため、大人に対してはマラリアに対応するため、それぞれ手順書を持っており、患者の症状に合わせて手順書に基づいて病気の診断をして薬の処方も行っています。そして、症状が改善しない時や重症の場合には、ヘルスセンター(一次医療施設)に患者を搬送します。マラリアの多発地域で、早期診断、早期治療のできるコミュニティヘルスワーカーは村の健康を守る大切な存在となっています。
コミュニティヘルスワーカーが使用している手順書 ©JRCS
コミュニティヘルスワーカー ©JRCS
冒頭でお伝えしたモデルビレッジ事業に協力する赤十字ボランティアの中にも、コミュニティヘルスワーカーを兼任している方がいます。その一人、ジョセリーンさんは、赤十字ボランティアとして、家庭菜園の管理や料理教室の食事指導なども担っています。
ジョセリーンさんは、「赤十字ボランティアとして家庭菜園などの指導を行う中で、住民の栄養状態が改善していくことや、またコニュニティーヘルスワーカーとしてのマラリア予防の指導などを通じて、住民の健康が守られることに大きなやりがいを感じています。『あなたのおかげで生活が楽になった』『子どもの命を助けてくれてありがとう』と声をかけてもらうことがうれしく、『愛』という言葉を大切にしながら活動を続けています」と語ります。
世帯を訪問するジョセリーンさん © JRCS
ヘルスセンター長の看護師を中心に地域住民の健康を促進
ヘルスセンターは、日本でいうところの診療所やクリニックのような医療施設です。村にあるヘルスセンターでは、看護師がセンター長を務め、地域住民の健康をコミュニティヘルスワーカーと協力しながら支えています。
コミュニティヘルスワーカーを教育する役割も持っているヘルスセンターは、医療に関する知識や技術を提供するだけでなく、予防注射や感染症予防などの疾病予防から栄養教室、家族計画などの健康増進における幅広い活動を行っています。
ヘルスセンターは、例えばマラリア患者の数が増えると、コミュニティヘルスワーカーに注意喚起のメッセージを伝え、コミュニティヘルスワーカーを通じて住民たちにもそのメッセージがすぐに届きます。また、自宅からヘルスセンターに搬送された住民の中には、外傷などによる傷の状態が悪化しているケースもあります。そうした場合には、コミュニティヘルスワーカーの指導を担当するスタッフに状況が共有され、村に患者が戻った後も、コミュニティヘルスワーカーがその患者をフォローできるよう、地域での支援体制が整えられています。現地聞き取りを進める中で、看護師であるセンター長の細やかな気配りと管理によって、住民の方々が安心して生活できる環境が整っていることを実感しました。
各世帯のトイレは女性や子どもたちに笑顔を届ける
村では、赤十字のモデルビレッジ事業を通じて、衛生環境を改善する取り組みが進められてきました。その一つに各世帯へのトイレ建設があります。従来の古いトイレを使っている住民の中には、地面に穴を掘っただけのものや、バナナの皮で簡素な壁が作られただけのもの、屋根もなく、丸太が不安定に穴に渡された危険なトイレを利用しているケースも多く見られました。そのようなトイレでは、特に女性の羞恥心も守られず、子どもたちもトイレの穴を怖がります。また、掃除が十分にできず、虫なども多く、安全や衛生面での問題が潜んでいます。
さらに、住民が苦痛に感じているのは雨の日です。屋根がないため、トイレを使用する際に全身がぬれてしまいます。汚水によって臭いが広がり、ハエなどの発生がひどくなります。そのような不衛生で苦痛を感じるトイレをなくし、一人でも多くの住民が安心・安全なトイレを利用することができるよう、事業では586世帯でトイレを建設しました。
古いトイレを撮影する鳥越看護師 ©JRCS
トイレ建設途中の様子 ©JRCS
各世帯のトイレを確認するために村を巡回すると、「トイレを建ててくれてありがとう」と多くのの女性たちの笑顔に出会いました。頑丈な壁と屋根があり、清潔で安心できるトイレは、人々の尊厳を守るとともに、特に、女性の安全を守る役割も果たし、赤十字の支援が届いていることをうれしく感じました。子どもたちも臭いや暗い穴におびえることなく、新しいトイレを喜んで使用していました。
新しいトイレを視察する鳥越看護師 © JRCS
今までとこれから
事業開始から6年、事業地を回ると多くの方々の笑顔と感謝の言葉に出会います。これは赤十字の支援によって住民の生活が向上していることを実感できることでもあります。例えば、各家の近くに村の水くみ場ができたことで、片道2時間かかる水くみから解放された子どもたちが学校に行けるようになったり、汚染水による体調不良がなくなったりしたとのお話も耳にしました。
今年の6月で現在の事業は終了しますが、活動に携わる現地の赤十字ボランティアの活動は今後も継続し、住民の生活をさらに発展させていく希望と力があると感じました。その一方で、周辺には、今でも行政のサービスが行き届かず、赤十字の支援を必要とする村が多く存在しています。私の派遣期間は終了して日本に帰任しましたが、今後も新たな村で赤十字の支援を継続し、ヘルスセンターやコミュニティヘルスワーカーと協働しながら、一人でも多くの住民が安心して生活できるよう支えていきたいと思っています。