【世界赤十字デー】バングラデシュ南部避難民支援: 人道の理念のもと、住民に寄り添う地域保健活動
5月8日は世界赤十字・赤新月デー(以下、「世界赤十字デー」)であることをご存じでしょうか。この世界赤十字デーに、私たちは世界中の約1600万人のボランティアと職員の人道支援に対する揺るぎない献身をたたえつつ、私たちの活動の指針である7つの基本原則への関心を高めるべく行動します。
国際赤十字・赤新月運動(以下、「国際赤十字」)のボランティアや職員は、きょうも人道支援の最前線で活動しています。国連も発表しているとおり、人道支援関係者の犠牲は過去最悪の数に達しており、2024年には赤十字・赤新月関係者だけでも、世界で30人以上が活動中に命を落としました。この事態を受け、国際赤十字全体が哀悼の意を表し、日本赤十字社(以下、「日赤」)社長も声明文を発出のうえ、国際人道法および赤十字の基本原則に基づく人道支援活動の尊重とその保護を強く訴えました。同じメッセージが国際赤十字・赤新月社連盟(以下、「連盟」)と赤十字国際委員会(ICRC)からも出ています。
赤十字の基本原則が採択されてから60年の節目を迎える今年の世界赤十字デーのテーマは、「On the Side of Humanity-いつも人びとの側(そば)に」です。この日に合わせ、国際赤十字はメッセージを発出しました。
本日は、世界中で活躍する国際赤十字の活動のひとつであり、ボランティアと職員が一丸となって取り組んでいる事業のひとつであるバングラデシュ南部避難民支援事業の様子をお伝えいたします。
■地域保健要員 秋田職員からの報告(鳥取赤十字病院)
バングラデシュ赤新月社は、避難民キャンプの住民*と元々その地域に住んでいた住民(ホストコミュニティ)を対象に、国際赤十字の手法のひとつであるCBHFA(Community Based Health and First Aid)を活用して地域保健活動を展開しています。
この活動は、医療サービスへのアクセスが制限された地域で、住民が健康に関する知識を身につけ、病気やけがへの対処方法を学び、自分たちの力で健康な生活を送ることを目指すものです。
右:CBHFA要員・秋田拓之職員 ©JRCS
*国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。
■治安の悪化、それでも地域住民に寄り添い続ける
2024年8月、バングラデシュ国内情勢の悪化に伴い、避難民キャンプ内の治安も悪化しました。特に日赤の支援先であるキャンプ14では、毎日のように銃声が鳴り響き、避難民キャンプの住民は日々恐怖を感じていました。この期間、バングラデシュ赤新月社は活動を継続しました。常に中立の立場であることと、人道の理念のもとで、常に住民に寄り添う姿勢を取り続けました。
住民に応急処置を施すボランティア(キャンプ14) ©JRCS
最前線で活動を継続してきたボランティアたちも、日々命の危険と隣り合わせでした。CBHFAチームが活動の拠点としている建物の近くで銃声が聞こえたり、活動地周辺に銃弾が転がっていたり、訪問先の世帯に置いてある椅子に銃弾が当たった痕があったりなど、自分たちの身にいつ何が起こるか分からない状況が続きました。そのような中、CBHFAチームは「安全第一」とし、常に報告、連絡、相談を欠かさず活動を継続していきました。
■コミュニティのニーズを吸い上げ、チームで応える
日赤の支援先キャンプ14で活動しているCBHFAファシリテーター・ピヤールさんとサンジーダさんにお話を伺いました。彼らはキャンプ14で活動するボランティアを統括し、必要に応じて世帯訪問に同行し住民の声に耳を傾け、ニーズの把握やニーズに応じた啓発活動を行っています。キャンプ内の治安が悪化した際にも、ボランティアからのフィードバックや自身の目で見た内容に基づいて地域住民のニーズを吸い上げていました。
左:CBHFAファシリテーター・ピヤールさん ©JRCS
ピヤールさんは2024年8月当時の様子を次のように語ります。「当時、キャンプ内の治安が悪化した影響で、避難民の人びとはストレスフルな生活を余儀なくされていました。男性は、夜間銃撃に遭うリスク、拉致されるリスクなどがあり、自宅での生活を避けていました。一方で、自宅に残った女性や子どもは夫がいない状況に恐怖を感じていました。次第に家庭内でのすれ違いなどから、ジェンダーに基づく暴力(Gender Based Violence:GBV)、いわゆる家庭内暴力などもさまざまな世帯で起こっていました。こういった問題を目の当たりにしチーム内で話し合いを行い、GBVに対する啓発活動を実施することにしました。非常にセンシティブな内容であるため、人目につく所を避けて、GBVとは何かというメッセージや、ストレスを抱えたら相談してほしいということ、困った時にどこに頼ればよいかなどの情報を伝えていきました」
CBHFAファシリテーター・サンジーダさん ©JRCS
サンジーダさんは、GBVの啓発活動に対する地域住民の反応を話してくれました。「以前にGBVに関する講義を受けていたので、ボランティアと振り返りを行って、啓発活動を行いました。当初、グループで行う啓発活動を実施していましたが、内容を改めて考慮した結果、個別で行う方が適切だと判断しました。GBVという言葉自体、住民にはなじみのない言葉であり、啓発活動中には時々驚いた表情や声を上げる方も少なくありませんでした。私たちがボランティアと一緒に住民に説明をしていくうちに、少しずつ納得し理解してくださいました」
■ヘルスという枠組みを超えた活動を目指して
CBHFAはヘルス活動に分類され、住民の健康を維持、向上する役割があります。世界保健機関(WHO)によると、健康とは「病気ではない、弱っていないということだけではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態であること」と定義されています。「健康」という言葉を耳にすると、心身が健康であることをまず想像しますが、住民同士のつながりや生活環境、社会的背景なども十分に考慮する必要があります。CBHFAは、地域保健活動を切り口とし、住民が安心安全に生活を送ることができ、災害時などに自助共助の関係を持つことができるよう、「ヘルス」という枠組みを超えた活動(Beyond the Health)を目指しています。キャンプ14でのGBVに対する啓発活動は、まさにBeyond the Healthを目指した取り組みです。
■地域で頼りになる存在になる
CBHFAのボランティアは毎日担当世帯を訪問します。健康に関する啓発活動だけでなく、医療機関への受診の促進、サイクロンや豪雨が迫っている時の避難の呼びかけ、生活に必要な施設やサービスの紹介など、活動内容は多岐にわたっています。ボランティアは活動を通してさまざまな知見を深め、住民との信頼関係を築くことで、地域の中で頼られる存在になってきています。そして、活動の輪を広げていくことで、ボランティアだけではなく、地域住民自身も力をつけていき、自助共助の力が高まっていくのです。
豪雨への備えとして、啓発活動や避難の助言を行うボランティア(キャンプ14) ©JRCS
■今後の展望
バングラデシュで生活する避難民は2024年に100万人を超えました。長期化する避難生活は将来の見通しがつかず、彼らは日々不安を抱えながら暮らしています。避難民が大量流入したことで、ホストコミュニティの住民の生活にも負担が生じています。
国際社会からバングラデシュ南部の避難民支援に対する資金援助は減少する中、限られた資源を最大限に生かし、避難民とホストコミュニティの住民が健康な生活を送ることができるよう、バングラデシュ赤新月社は連盟や各国赤十字・赤新月社とともに支援を継続しています。
今後とも日赤の国際活動へのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
バングラデシュ南部避難民救援金を受け付けています
詳しくは、以下のボタンをクリックして、バングラデシュ南部避難民救援金ページをご覧ください。
また、日赤のバングラデシュ南部避難民支援に関するこれまでの活動もこちらからぜひご覧ください。